従業員本人の同意のない給与額の減額は可能ですか?
個別の給与額の減額については、従業員の同意がなく、就業規則・労働協約・労働契約にその根拠が明示されていなければ、一方的に行う事はできません
長引く不況の下、各企業では様々な経費削減を考えていらっしゃることと思います。しかし、多くの場合は、すでに支給されている給与額の減額は最後の手段として、出来る限り手をつけないよう努力をされているのではないかと思います。
給与額の減額は、会社と従業員の間の契約内容の中で最も本質的で重要な要素(項目)と言えますので、なかなか給与額の減額に踏み切る事はできないのが実態でしょう。雇用契約そのものが変わるような契機(定年して再雇用する等)でもなければ、給与額を減額できないのが日本の一般的な企業のあり方だと思います。

しかし、様々な経費削減を行ってもまだ不足である場合には、現在の給与額を減額する事も考えなければならなくなる事もあります。
その場合において、何の根拠もなく会社側の一方的な意思だけで給与額の減額をすることはできません。これは、雇用も契約の一種であり、一旦成立した契約事である以上は一方の当事者の意思だけで契約内容の変更ができないという、一般的な契約のあり方から言っても当然の事と言えます。これは会社側も従業員側もよく認識していただきたいのですが、雇用するということは、契約するということです。勘違いをなさらないよう、十分に御注意下さい。
それであれば、契約の双方−この場合、会社側と従業員になりますが、その双方が納得し了承したのであれば、給与額の減額にはなんら問題がないということとなります。但し、この場合は、給与額そのものの減額の他に減額方法についても同意を得る必要があります。また、後からでも問題のない契約変更であったことが明確にわかるような形態(書面等)を取っておく必要があります。

このような当事者(従業員)の同意がない状態で契約内容の変更(給与額の減額)をする場合は、予め個別の労働契約書に減額理由が明記されており、給与額の変更が可能なものとなっている必要があります。しかしこの場合であっても、最初の契約時にこの点について十分な説明をしている事が必要でしょう。
それもない場合は、最低限でも就業規則に減額する事があり得るという定めがなければなりません。もし、すでにある就業規則にそのような定めがない場合でこれを変更する場合は、不利益変更となる可能性が高くなりますので、原則として労働組合や従業員への十分な説明と合意が必要となります。

尚、例えば月給制を時給制に変更するなど、必ずしも減額に直結しないような場合であっても、状況によっては減額となりうるような変更の場合も同様に考えられますので、注意が必要です。
また、基本的な給与額が変わったとしても、時間外労働については法的に正しい額を支払う必要がありますので、この点もお間違いのないよう御注意下さい。





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2012.3.24


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